縄文犬：「琉球犬」と「北海道犬」は『縄文犬』の子孫か？

　２月２４日（平成２０年）、ＴＢＳテレビ『動物奇想天外』で沖縄の「琉球犬」と北海道の「北海道犬」は縄文時代の『縄文犬』の系統（子孫）であると説明していました。 詳しい説明はありませんでしたが、これは田名部雄一氏らによる犬の赤血球の分析により推測された説を根拠としているものと思われます。 この説については「イヌの動物学」（猪熊寿／著・東京大学出版会2001）の中にあったものを読んだ程度ですが、現代の犬の血液（赤血球）を調べてその分布状況から推測したもので、古代の犬が人の移動により日本列島を北上した後に弥生時代に朝鮮半島から渡来した弥生人の犬と同化して今の日本犬の原型となったが、辺境の沖縄と北海道の犬だけが取り残された。と言う説です。（「田名部雄一」で検索してみて下さい。参考までに。琉球犬と北海道犬については、このようなものがあります。→生きた文化遺産“琉球犬”北海道犬について） これはこれで、興味深い説ではありますが、縄文時代の遺跡から出土した犬の骨から取り出したミトコンドリアＤＮＡの解析では異なる結果が出ています。 縄文犬のミトコンドリアＤＮＡを調べた石黒直隆氏は、「古ＤＮＡ分析で探る縄文犬の系統」の中で次のように述べています。 『古いＤＮＡ解析の結果は田名部雄一氏らの説とは少し異なったものであり、現生の北海道犬も琉球犬も弥生時代以降に大陸から移入された渡来犬の影響を強く受けたものと考えられる。（考古学ジャーナル2003年5月号より）』 この2003年5月号は、縄文犬特集で、縄文犬を知る上でたいへん参考になるものです。 縄文犬の特徴は、体格は柴犬程度でありながら、柴犬よりも四肢が頑強で、頭骨がやや大きく額の段差（ストップ）が浅く、現代の犬よりもオオカミに近い形をしています。 体格には地域差があるとしても、琉球犬や北海道犬はストップが大きく、縄文犬の外観的な特徴は見られず、琉球犬や北海道犬の姿から縄文犬の姿をイメージするのは無理です。頭の形が全然違います。むしろ、小さなオオカミをイメージしたほうが縄文の姿に近づけるように思います。（番組内の琉球犬は、ストップが大きく普通の日本犬と変わらない横顔でしたし、四肢も頑強そうには思えませんでした。琉球犬の特徴で古代の犬の証拠とした「狼爪」も珍しいものではありません） 　縄文犬の用途は、狩猟犬と考えられており、出土した骨には犬歯等を負傷した痕跡が多くみられ、また、死亡推定年齢の若い個体も多いようで、これはかなり過酷な狩猟を行っていたと考えられます。 遺跡からは猪の骨が多数出土していることから猪猟を行っていたものと思われます。 縄文犬は猟犬だったとしても、獲物の居場所を探索するだけでなく、獲物と格闘する猟犬で、私の想像ですが、現代の猪の「咬み止め猟」に近いことを行っていたのではないかと思っています。 これは、平成１４年に一部が規制されましたが、多数の犬に猪を襲わせて（咬みつかせる）動きを止め、猟銃かナイフで仕留めるもの。 複数の犬とナイフさえあれば猟が可能なので、狩猟免許を持たず、狩猟者登録もせずに咬み止め猟を行う者がいたので、猟銃で仕留める以外の咬み止め猟が禁止されました。（『犬に咬みつかせることのみにより捕獲する方法又は犬に咬みつかせて狩猟鳥獣の動きを止め若しくは鈍らせ、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律第３条の規定に基づき環境大臣が定める猟具を使用する方法以外の方法により捕獲する方法を禁止』環境省） 縄文犬が猪を襲い、人が槍で仕留めることは十分可能だったと思われます。（ストップの浅い縄文犬は、現代の犬よりも咬みつく力も強かったと考えられています）また、狩猟採集生活の大切な道具だったため、手厚く埋葬されたのかもしれません。（酸性土壌の多い日本では貝塚からの出土に限られることが多く、よくわかっていない部分もあります） ちなみに、弥生人は、犬を食べていた痕跡（骨についた刃物の痕等）があります。